Dの意志

最近、ネットのビデオオンデマンドサービスで『北の国から』を観ている。

Stravaで繋がってるムネコフさんが観てるというのを知って影響を受けたのだ。

『北の国から』は20代の暇だった頃にレンタルビデオ屋で借りてぜんぶ観たのだが、だいぶ話を忘れてた。

改めて見返してるとこの世界感と田中邦衛の表情は好きだなと思う。

あと地井武男とか大滝秀治の演技力。20代に観た頃にはわからなかった凄みを感じる。演技のことはよくわからんけど。

「純」役の吉岡秀隆もいい。ドラマの設定だと小3とか小4かな。

ドラマでは純はだいたいいつもキャップ(野球帽)をかぶっていて。観てたら自分が小学校低学年のころに被ってたキャップのことをぼんやりと思い出した。

なので今日はそのことを書いてみる。

あ、今回はランニングの話は全然ありません。あしからず。

◇◇◇

小学生の頃、うちの家族は東京の西の端っこのほうに住んでいた。

ライオンズの本拠地である西武球場にわりと近い土地だった。

自分は野球にはあまり興味がなかったのだが、父親は野球が好きだった。だから「いくぞ」という親父の号令で、たまの週末に西武球場におもむいては家族でライオンズを応援した。

自分が小学校低学年だったそのころは、ちょうどライオンズの黄金期で。

野球のことは詳しくない自分でもわかるくらい、あのころのライオンズはもうめちゃくちゃ強かった。秋山、清原、デストラーデが最強のクリーンナップを組んでた時代。

なかでも秋山が好きだった。甘いマスクだし、打つとこで打つ。ホームインするときにはバク転を決める。小学生男子が好きにならない理由がなかった。球場の売店で秋山がバットを振る写真がプリントされた下敷を買ってもらった覚えがある。うれしかった。

◇◇◇

前述したようにライオンズのお膝元みたいな場所柄ってこともあり、小学校の友達もライオンズファンの子が多かった。

そして皆、空色のライオンズのキャップをかぶっていた。

このキャップ。みんなかぶってたな。

小学生男子の心をくすぐるレオマークがいま見てもかっこいい。強いライオンズの象徴。欲しくならない理由がどこにもない。

自分もこのキャップがほしくてほしくて親に何度もねだった。

だがついに買ってもらえなかった。

その代わりに。

「お前はこれをかぶれ」と、ある日親父に手渡されたのがこれだった。

 

 

中日ドラゴンズである。

「ええー。あんまり欲しくねえな」とガッカリした覚えがある。上州の竜さんには悪いけど。

 

親父は愛知県の出身で。

ご多分に漏れず根っからの中日ファンだった。

我が家ではドラゴンズの試合中継がある夜は、だいたい晩酌をしながら野球中継にチャンネルを合わせていた。

たまに星野監督がぶち切れてマウンドが乱闘になりそうな空気になると、親父はうれしそうに笑った。

「星野監督がまーた怒っとるでかんわ。わはは!おかあさん焼酎もういっぱい!」

と、上機嫌だった。

ふだんは怖い親父が気持ち良さそうに尾張弁で笑うのをみて、我々兄弟はなごんだ。

我が家の精神は中日ドラゴンズと共にある。

親父から湧き出る「Dの意志」はひしひしと伝わってきた。

だから、親父が買ってくれたこの一張羅のドラゴンズのキャップをいつもかぶっていた。

もちろん西武球場にいくときも、このドラゴンズのキャップをかぶっていった。

ほんとのこと言うと、小学生ながらコレをかぶって西武球場行くってなんだよ、おれだってレオ様のやつをかぶりたいと思ってたが、もってなかったから仕方なく。

そして「かっとばせーキヨハラー」とライオンズの応援をした。Dの帽子をかぶって。

うちは今ライオンズ応援してるけどさ、ほんとは中日なんだから。うちは。という意味不明な隠れキリシタン的な誇りがちょっとだけあった。ぜんぜん隠れてなかったけど。

そんな親父は、ドラゴンズのキャップも、ライオンズのキャップもかぶってなかった。ノーキャップだった。ズルくねえか。今思えば。

◇◇◇

ある日、いつものように晩酌をしながら野球中継を観ていた親父に、一番好きな野球選手は誰か、と聞いたことがある。

星野監督か、落合か、どっちかって言うだろうなと期待して聞いた。

だがその予想はあっさり裏切られた。

「やっぱり長嶋かなー」

と親父はあっさり答えた。

なんでだよ!

中日じゃないのかよ。Mrジャイアンツかよ。

そこに誇りはないのかよ。だったらライオンズのキャップ買ってくれよー。

と思った。怖いから言わなかったけど。

大人って難しい。子供ながらに思ったものだ。

◇◇◇

年月はすぎ、小学生の高学年になると。

皆はライオンではなく、今度は牛のマークのキャップやTシャツが流行り始めた。

牛といっても近鉄ではない。

シカゴブルズだ。バスケットボールの時代がきていた。

みんな動物好きだなーと思った。

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